【小説】Useless 4
シャツのボタンが弾け跳び、軽く無機質な音を立てながら転がっていった。
「あんたもグルなんだろ」
男が力を入れると、俺の躰がわずかにフロアから浮き上がった。何か言おうにも声が出せない。やがて男もそれに気が付き、少し力を緩めた。
「……一体、何の話をしている?」
「この動画を撮った奴を知ってるんだろ」
俺は首を振った。男は更に力を緩めた。俺はようやく息を大きく吸い込んだ。
「とんだお門違いだぜ。俺はお前も知らなきゃ、動画を撮った奴も知らん」
男はしばらく俺の目を見つめた後、手を離した。
「そうか。だが、まだ信じた訳じゃないぜ」
俺は足元に転がっていたシャツのボタンを蹴飛ばした。
「お前、馬鹿じゃないのか。その動画を撮った奴は、お前が俺をぶん殴るところを撮したかったんじゃないのか? 俺がそうしたかったら、もっとお前を挑発してたよ」
男は黙り込んで、俺の言葉を反芻していた。やがて口を開いた。
「あんたが正しいようだ。確かにあんたが腑抜けた顔をしてたから、殴る気もなくなったんだしな」
俺はエレベータに近づき、ボタンを押した。
「とっとと消えろ。……いや、待て、シャツ代ぐらい払ってけ」
男は人が変わったように素直に尻ポケットから財布を抜き、千円札を何枚か差し出してきた。俺はそれをひったくると開いたエレベータに乗り込んだ。男は俯いて突っ立っていた。エレベーターの覗き窓越しに見える男は、ふた回りも躰が縮んだように見えた。