【小説】Useless 3
数日後の夜、あの日と同じような時間にマンションに着いた。車を降りると、柱の陰からあの男が現れた。この間と同じ格好だった。
「勘弁してくれよ。こないだのやり直しか?」
男は首を振った。
「そうじゃない。教えて欲しいことがあるだけだ」
「何だって?」
「少し時間をくれ」
俺は男と距離を取りながら、エレベータホールへ向かった。男は黙ってついてくる。
「一体何が知りたいんだ?」
エレベータホールの灯りで男の顔がはっきり見えた。この前は30過ぎだと思ったが、案外もっと若いのかもしれない。
男がポケットに手を突っ込み、俺に近づいた。俺が身構えるのを見て、男は微かに笑った。
「ちょっとこれを見てくれ」
男がポケットから取り出したのはスマホだった。男が太い指で、パネルを触った後、俺に手渡した。動画が再生されていた。 見覚えのある場所、見覚えのある人物。
「この間の夜じゃないか。こんなの録画してたのか」
「俺が撮らせたんじゃない。誰かが俺にメールを送ってきたんだ」
男は苦々しい口調で言った。
俺はスマホを勝手に操作して、もう一度再生した。
動画は俺がワーゲンを降りるところから始まっていた。柱の陰に隠れていた男が背後から近づき俺を突き飛ばす。
そこからしばらくは、俺の姿は車に遮られ映っていない。やがて立ち上がった俺の後ろ姿。ちょっとしたやり取り。そして男が首を傾げながら撮影者の方に歩いてきて、画面左に方向を変え、フレームアウトしていった。もう一度、音量を上げて再生し直したが、音声は何も入っていなかった。
「で?」スマホを返し、俺は男に訊いた。「俺に何を?」
俺が言い終わる前に、男が俺の胸倉を掴み、ホールの壁に押し付けた。